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No.34
御影密と女主とウィークエンドシトロン
秋の日差しが心地よく身に沁みる。部屋の窓際に置かれた大きなビーズクッションに身体をもたれかけて日向ぼっこ。夏ならば暑くて辟易していた日差しも、肌寒くなってきたこの季節になるとその温かさが恋しくなる。海老のように丸くなって目を瞑るとふわふわと良い心地になって、うとうとと眠くなっていく。
「密さん? お眠ですか?」
彼女の、{name2}の声。優しくて柔らかくて、お菓子みたいに甘くて良い匂い。洋菓子店に勤務する彼女の家はお店で出すお菓子の練習のためにお菓子を作っている為いつも甘い匂いがする。焼き菓子の香ばしい匂いであったり、チョコレートの甘い匂いであったり。甘いものが好きな俺にとってはそれがたまらない。ふらりと朝日の家に立ち寄れば、彼女は嫌な顔一つせずににこにこと笑って部屋に上げてお菓子をご馳走してくれる。味見してほしいと差し出される{name2}が作るお菓子は甘くて美味しい。食感も甘さも香りも、そのお菓子の美味しいを引き出すようして作られているからどのお菓子も文句のつけようがなく美味しい。俺はマシュマロが好きだけど、同じぐらい{name2}が作るお菓子は美味しくてどれもお気に入り。甘いものが好きな俺にとってはまさに至れり尽くせりだ。必ず帰る際には俺が所属する劇団の団員達と食べてとレモンケーキをお土産まで渡してくれる。レモンの爽やかな風味と表面をコーティングする砂糖掛けの程よい甘さ。口当たりが良くて劇団の皆からも好評だった。本当は誰にもあげたくないけれど{name2}は皆で食べてねと必ず念押しをする。穏やかな{name2}がそういう風に強めに主張するのは珍しいし、余程のことだろうから仕方なく皆にお裾分けしているけれど、どうしてなのだろう。
「密さん、密さん。起きてください。有栖川さんがお迎えにきていますよ」
「迎えに来たよ、密くん。皆が待っているから帰ろう」
劇団の同室のアリスが{name2}の家の中に入ってきていた。いつも眠ってしまう俺を迎えに来るのはアリスの役目みたいになっているけれども、まだこの砂糖菓子のような空間で微睡んでいたい。そっと片目を開けてアリスの姿を見つけて、再び目を閉じる。
「いないって言って追い返して」
「いないって……私もう目の前にいるのだからそれは通用しないよ」
「お、起きて密さん……。お土産のケーキもありますから」
「レモンケーキ?」
「ええ。今日のは良い出来栄えです」
「おお。{name2}くんの特製のレモンケーキだね。私もこれを頂くの楽しみなのだよ」
先程まで考えていたレモンケーキの事が話題に上がり、思わず目を開く。何かいい詩興の予感がするといいながらブツブツ何か考えているアリスを放っておいて、ゆっくりと体を起こす。おはようございますと少しほっとしたような笑みを浮かべた{name2}を見やる。またいつでも来てくださいねとラッピングされた箱を差し出される。
「皆さんで食べてくださいね」
「どうしていつもレモンケーキなの?」
俺の問いかけにキョトンした{name2}が、おずおずと言う。
「お嫌い、でした?」
「ううん。{name2}のお菓子はいつも美味しいから好き」
「そ、それはありがとうございます!」
「俺一人で全部食べたいぐらい」
「そ、それはダメ。だ、ダメです」
「なんで?」
「珍しいね。物腰の柔らかい{name2}君がそこまで言うのは?」
疑問に思っていたのは俺だけではなかったらしい。新しい詩を考えていたアリスもはたりと意識をこちらに向けて怪訝そうな顔をしている。
「ウィークエンドシトロンはこのケーキの名前通り週末に大切な人達と一緒に過ごしながら食べるケーキです。だから大事な人達との時間をこのケーキを食べながら大切にしてほしいんです」
「そういう事だったんだね」
「そうなんだ。俺、知らなかった」
「なので密さんにとって大切な劇団の方々と楽しく食べてくださると嬉しいです」
一人で食べちゃダメですよ渡されたレモンケーキの入った箱。アリスの方を見れば、穏やかに笑っていて、見透かされているみたいで何だか腹が立つ。
「食べるよ、{name2}」
「ええ、皆さんで食べてくださいね」
「{name2}と俺とで」
「え?」
「密君。私の分もちゃんと用意してくれたまえよ」
「……仕方ないからアリスの分も」
「仕方ないとはなんだね!?」
{name2}の手を引いて椅子に座らせると、台所から包丁とお皿を三枚持ってきて、箱の中のケーキを切り分ける。慌てる{name2}をアリスが宥めながら、紅茶を用意する。
「ひ、密さん」
「俺は{name2}の事も大切に思っているから、今日は{name2}と一緒にケーキを食べたい。そう思うのはダメなの?」
「……ダメ、じゃないです。ありがとうございます」
泣きそうな顔をする{name2}の頭を優しく撫でる。いつもありがとうと言葉を掛ければ、ついに泣き始めてしまい、泣き止むまでの間は暫くケーキと紅茶はお預けになってしまった。
23.07.23 『Sweets are forever.』 初出
秋の日差しが心地よく身に沁みる。部屋の窓際に置かれた大きなビーズクッションに身体をもたれかけて日向ぼっこ。夏ならば暑くて辟易していた日差しも、肌寒くなってきたこの季節になるとその温かさが恋しくなる。海老のように丸くなって目を瞑るとふわふわと良い心地になって、うとうとと眠くなっていく。
「密さん? お眠ですか?」
彼女の、{name2}の声。優しくて柔らかくて、お菓子みたいに甘くて良い匂い。洋菓子店に勤務する彼女の家はお店で出すお菓子の練習のためにお菓子を作っている為いつも甘い匂いがする。焼き菓子の香ばしい匂いであったり、チョコレートの甘い匂いであったり。甘いものが好きな俺にとってはそれがたまらない。ふらりと朝日の家に立ち寄れば、彼女は嫌な顔一つせずににこにこと笑って部屋に上げてお菓子をご馳走してくれる。味見してほしいと差し出される{name2}が作るお菓子は甘くて美味しい。食感も甘さも香りも、そのお菓子の美味しいを引き出すようして作られているからどのお菓子も文句のつけようがなく美味しい。俺はマシュマロが好きだけど、同じぐらい{name2}が作るお菓子は美味しくてどれもお気に入り。甘いものが好きな俺にとってはまさに至れり尽くせりだ。必ず帰る際には俺が所属する劇団の団員達と食べてとレモンケーキをお土産まで渡してくれる。レモンの爽やかな風味と表面をコーティングする砂糖掛けの程よい甘さ。口当たりが良くて劇団の皆からも好評だった。本当は誰にもあげたくないけれど{name2}は皆で食べてねと必ず念押しをする。穏やかな{name2}がそういう風に強めに主張するのは珍しいし、余程のことだろうから仕方なく皆にお裾分けしているけれど、どうしてなのだろう。
「密さん、密さん。起きてください。有栖川さんがお迎えにきていますよ」
「迎えに来たよ、密くん。皆が待っているから帰ろう」
劇団の同室のアリスが{name2}の家の中に入ってきていた。いつも眠ってしまう俺を迎えに来るのはアリスの役目みたいになっているけれども、まだこの砂糖菓子のような空間で微睡んでいたい。そっと片目を開けてアリスの姿を見つけて、再び目を閉じる。
「いないって言って追い返して」
「いないって……私もう目の前にいるのだからそれは通用しないよ」
「お、起きて密さん……。お土産のケーキもありますから」
「レモンケーキ?」
「ええ。今日のは良い出来栄えです」
「おお。{name2}くんの特製のレモンケーキだね。私もこれを頂くの楽しみなのだよ」
先程まで考えていたレモンケーキの事が話題に上がり、思わず目を開く。何かいい詩興の予感がするといいながらブツブツ何か考えているアリスを放っておいて、ゆっくりと体を起こす。おはようございますと少しほっとしたような笑みを浮かべた{name2}を見やる。またいつでも来てくださいねとラッピングされた箱を差し出される。
「皆さんで食べてくださいね」
「どうしていつもレモンケーキなの?」
俺の問いかけにキョトンした{name2}が、おずおずと言う。
「お嫌い、でした?」
「ううん。{name2}のお菓子はいつも美味しいから好き」
「そ、それはありがとうございます!」
「俺一人で全部食べたいぐらい」
「そ、それはダメ。だ、ダメです」
「なんで?」
「珍しいね。物腰の柔らかい{name2}君がそこまで言うのは?」
疑問に思っていたのは俺だけではなかったらしい。新しい詩を考えていたアリスもはたりと意識をこちらに向けて怪訝そうな顔をしている。
「ウィークエンドシトロンはこのケーキの名前通り週末に大切な人達と一緒に過ごしながら食べるケーキです。だから大事な人達との時間をこのケーキを食べながら大切にしてほしいんです」
「そういう事だったんだね」
「そうなんだ。俺、知らなかった」
「なので密さんにとって大切な劇団の方々と楽しく食べてくださると嬉しいです」
一人で食べちゃダメですよ渡されたレモンケーキの入った箱。アリスの方を見れば、穏やかに笑っていて、見透かされているみたいで何だか腹が立つ。
「食べるよ、{name2}」
「ええ、皆さんで食べてくださいね」
「{name2}と俺とで」
「え?」
「密君。私の分もちゃんと用意してくれたまえよ」
「……仕方ないからアリスの分も」
「仕方ないとはなんだね!?」
{name2}の手を引いて椅子に座らせると、台所から包丁とお皿を三枚持ってきて、箱の中のケーキを切り分ける。慌てる{name2}をアリスが宥めながら、紅茶を用意する。
「ひ、密さん」
「俺は{name2}の事も大切に思っているから、今日は{name2}と一緒にケーキを食べたい。そう思うのはダメなの?」
「……ダメ、じゃないです。ありがとうございます」
泣きそうな顔をする{name2}の頭を優しく撫でる。いつもありがとうと言葉を掛ければ、ついに泣き始めてしまい、泣き止むまでの間は暫くケーキと紅茶はお預けになってしまった。
23.07.23 『Sweets are forever.』 初出
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名前変換プログラムの仕様上デフォルト名が統一されていますが、作品毎に主人公の設定が異なります。
鍵付き作品は明治11年を西暦四桁。