本丸に神降ろしがなされて暫く。放任主義な主に少しばかり面を食らったが、日々不自由なく過ごしている。歴史修正主義者討伐のための出陣や資源確保の遠征、他所の本丸との演習などの使命は勿論果たしている。碌に休みもない劣悪な環境の本丸があるが、この本丸は任務に支障がないならば自由――謀反を働くようなこと以外は――にしてよいという。
怪我をすれば丁寧に手入れをしてくれるし、無茶な進軍はさせない。そういった点を見れば、この本丸は良心的なのだろう。ただ、任務以外に審神者との関わり合いがないから、牛や馬のように放し飼いにされている気分だ。
「主、何処かに行くのか?」
「万屋に行ってくるよ、何か買って来て欲しいものあるかな?」
「俺もついてく!」
「? 今日は非番なんだから、無理に着いてくる必要はないよ?」
「いいんだよ、俺が主と行きたいの!」
「そう?」
自分よりも小さな身体に腕を巻き付ければ、刹那、彼女は身を堅くする。
一緒に過ごすようになってから、こういった行動で示す愛情表現を受けることに戸惑う事に気がついた。嫌がっている訳ではないから、いつもそれに気づきながらも知らぬ振りをする。
ぐりぐりと頬擦りをすると彼女は困ったように苦笑し、恐る恐る撫でてくれる。ささくれてごわついているが、優しい手つきだ。不器用にも慈しみを持って撫でてくれる。愛情のつまったこの手が好きで俺はいつもこうやって彼女の擦り寄っていた。不器用なりに俺達刀剣男士達の事を良く気にかけてくれていたし、俺達を丁寧に扱ってくれる。そんな彼女の事を少なからずも好いている。主として慕っている。
言葉にはしないが、俺が彼女を慕っている事実を嬉しく思ってくれているらしい。彼女は俺が甘えると満更小さく口角を上げる。そういうところが、少し不器用で可愛い。
そういうとむず痒かって隠してしまうから言わないけれども。
「獅子王、獅子王」
「なんだぁ?」
「お前は私には勿体ないくらい甘やかしてくれるね」
「そうかなぁ?」
「いつも私の事大切にしてくれてありがとう」
お前の心、嬉しいよ。
主は屈託なく笑った。俺に笑いかけてくれるだけで嬉しかった。
縁ある幕末の刀剣男士、特に新選組隊士縁の刀剣男士とは仲が良さそうで羨ましかった。主は不器控えめな性格だから俺たちが近付かなければ必要以上に踏み込まないように配慮している。それが余計に寂しい。きっと他の刀剣男士も同じだと思う。
だから何気ない買い出しだって、少しでも寄り添う時間ができることが嬉しい。
俺達は、刀は、こうやって人間に寄り添えるのが一番嬉しいのだ。
「」
「何だい?」
「これからも俺の事、大事に使ってくれよな」
そっと額に唇を寄せれば、きょとんとした表情をしたが、小さくはにかんで俺の額にも口付けを落としてくれた。
今日の夕食は俺の好きな献立を作ってくれるのだろう。彼女は俺の事も大事にしてくれるのだから。