*旧マーリン=夢主。一種の成り変わり?ねつ造過多。
*何でもOKな方向け

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浮き足だったカルデア内に首を傾げながら湯を沸かす。
女性も男性もどこか所在なさげな様子。
はて何かあっただろうかと眠気の靄に覆われた脳に問いかけるがあまり効果はない。
くわっと口を大きく欠伸をする。

珈琲豆をじゃらじゃらと機器に注ぎ、ハンドルを回し始める。ガリガリと豆が削られていく音ともに芳ばしい香りが漂ってきた。粉末状に加工されたインスタントも楽でいいが、この豆を挽く手触りや挽いた瞬間に砕いた割れ目から漂い始める豆の香りの香ばしさが気に入っていた。
自然と顔が綻ぶのを感じながら徐に豆を挽いていると、さんと呼ぶ声が聞こえてきた。
随分と喜色がかった声だ。

「こんにちは、さん」
「やあ、マスター君。コーヒー飲むかな?」
「飲む!」

食堂の入口に姿を現したのはのマスターの少年であった。
がマグカップを持ち上げてサインを送れば、彼は益々笑みを深めて彼女に駆け寄って来た。
こう真っ直ぐな感情を向けられるのはこそばゆく、思わず肩を竦めてしまう。だからこそ皆は彼を慕うのだけれども。
ちらりと彼を一瞥すれば、珈琲のいい匂いだねと表情を弛緩させている。
そっと頭を撫でてやれば、ぽかんとした表情を浮かべている。

「――?」
「ミルクは多めがいいのだったかな」
「俺ブラック飲めるよ!……といいたいところなんだけれどもね」
「君には甘いすぎるぐらいがちょうどいいさ」
「なんだよ、馬鹿にしてー!!絶対飲めるようになってやるからな!」
「ははっ。では、マスターと一緒にブラックコーヒーを一緒に飲める日を期待して待っているよ」
「それ期待してないでしょ、!!」


ぷりぷりと怒るマスターを後目に、挽いた豆をマグカップの底にさらさらと降らせていく。沸騰した薬缶の火を止めて、その上にお湯を撒いていく。
冷蔵庫から牛乳パックを取り出して、片方のマグカップへと注いでいく。珈琲がミルクティーに変わる。

「ちょっと入れすぎ!入れすぎ!」
「そう?お砂糖あるよ?」
「ちょ、ちょっと!スティックシュガー3本も出さないでよ!そこまで甘党じゃない!」
「牛乳だけでいいのかな?無理して飲む必要もないだろう?」
「お菓子持ってきたんだ。だからお砂糖は要らないよ」
「そう?ああ、一本入れちゃった」

マスターは隠し持っていた紙袋を漸くの目の前に出した。
正直な所、は彼がこの食堂の入口に立っていた時に後ろ手に隠していたことを知っていたが、知らぬふりを続けていた。それ以前に千里眼を持つ彼女が気づかぬはずがないのである。かといって彼女が持つ千里眼の能力のことを忘れて、上手く隠せていたと上機嫌なマスターを前に正直に告白するのは当然情緒も減ったくれもない。
彼に合わせるようにどうしたものかと顔色を窺えば、さんに上げようと思っていたんだと達成感に満ち溢れた顔をしていた。
そういう甘いところはそのままでいてほしい。
紙袋を丁寧に開いていけば、中には菓子がいくつか入っていた。
それは以前、弓兵のエミヤが作っていた焼き菓子だ。初めて食べた時に美味しいねと彼に感想を送った覚えがある。それを聞いていたのだろうか。色は黄金色で貝殻の形をした美味しいお菓子だが、これは焼目が濃いようだ。

「エミヤに教えてもらって作ってみたんだ。エミヤみたいには上手にはできなかったけれども、味はOKもらったから大丈夫だよ」
「――マスター君」
「最初会った時はびっくりしたけど、さんともっと仲良くなりたいからこれからもよろしくね!」





マスターから貰った焼き菓子の袋を片手には自室へと向かっていた。
彼のお茶会は珈琲と焼き菓子をとりながら少しばかりの談笑をし、マグカップの水底が見えた頃にお開きとなった。
彼曰く、今日はホワイトデーというイベントの日であるらしく、2月14日のバレンタインデーというイベントと対になるイベントの日らしい。先月の14日は女性から男性へ愛を語る日であったそうだが、今日は男性から女性へと愛を送る日らしい。
愛と言っても千差万別であるから、愛情や友情、感謝、その愛の表現は様々であるようだが。
彼は先日のその日に沢山のサーヴァントから贈り物をいただいたためにカルデア内を練り歩き、一人一人返し歩いているらしい。
次のサーヴァントに渡しに行くと快活に走り去っていった彼を見送って、は大人しく自室へと戻ることにしたのだ。
腹も満たされたし、ひと眠りだ。面白そうではあるが、全サーヴァントとマスターの行く末を見て回るほど付き合っていられない。

「……おや?」
「探したよ、
「王。ぼくに何か用かな」

自室の自動扉をくぐれば、金色の君。その碧眼がの姿を捉えた瞬間、緩やかに歪む。
生前の弟子であり、主であるアーサー・ペンドラゴンその人である。その人も今日という日の例外ではないらしい。普段身に纏う白銀の鎧は休業か。
見慣れぬ真白のスーツを身に纏っている。ジャケットの所々に青いラインが入り、ネクタイやベストの下の水色のボーダーシャツ。白と青を基調としたカラーは彼らしい色合いと爽やかさを演出している。
どうかなとおずおずと尋ねてきた彼に素直に似合っていると返事をすれば、安堵したようにはにかんだ。

「どこに行っていたんだい?」
「食堂だよ。そこでマスター君に会ってお菓子貰ったよ」

くるりとその場で回って見せてマスターからもらった紙袋を掲げて見せる。
一瞬驚いた表情を浮かべたが直ぐにその表情は心地悪そうな表情へと変わっていく。珍しい反応だと
も驚いた。
彼は出遅れてしまったと頬を掻いていたが、気を取り直したようにの手を取って近くに引き寄せる。

。マスターには先越されてしまったけれども、僕から君に――」
「これは?」

そっと手の上に乗せられた一輪の白い薔薇。
まじまじと見つめていれば、ぐいっと引っ張られて背中に腕が回される。
手に持っていた紙袋が落ちていく。

「僕の気持ち」
「――ありがとう。アーサー」

花を贈ることはあってもなかなか送られるという経験はないかもしれない。
花を贈られるというのは心穏やかになる。純粋に選んで渡してくれたことが少し嬉しい。
手に持っていた薔薇はすっと引き抜かれて、の白銀の髪に飾られる。
自分の髪色と同じ花はきっと映えない筈であるのに、それでも彼は満足そうに目を細めている。
彼が満足であるならばいいかとそっと思い直して、彼の両頬を包み込むと優しく撫でてやる。よくこうして彼が小さい頃に撫でてやったら喜んでいたっけとぼんやりと思い出したが、彼はぎょっとしていた。
少し行動選択を間違えたかもしれないなと思うたが気にせず撫でるように手を頭頂部へと移動させていく。
金糸雀の髪をさらさらと撫でてそっと魔法をかけてやる。
の行動にたじたじであった彼も次第に違和感に気づき始めていく。頭に手を当てた。

「――月桂冠?」
「それと、私から君にこれを」

ジャケットのポケットに一輪の花を差す。
青い薔薇の花だ。
ぽかんとしているアーサーを横目に落としてしまった紙袋を拾うとサイドテーブルに置いて寝台に腰掛けた。
おいでと両手を広げれば彼は目を大きく見開いて固まっていた。アーサーと名前を呼ぶと我に返ったようで勢いよく飛びつかれそのまま寝台に押し倒される。

「花言葉はわかってる?」
「ぼく、花の魔術師って通り名があるんだけどなあ」
「僕はよく知らないから君の口から聞きたい」

教えて

穏やかな表情で見下ろす王様。その瞳には惚けたの姿が映っている。
すっと顔を近づけてくる彼に、先ほど送った胸ポケットの青い薔薇を引き抜いて花びらを彼の唇に押し付けて笑みを浮かべてみせる。

「ないしょ」