dc夢 / fry / 学パロ / ネタ供養 今年も憂鬱な時期がやってきた。体育祭。日本では明治時代末期に「富国強兵」「健康増進」と言った意味で普及され、現在では健康や仲間たちとの協調性や連帯感を養うための行事とされていることが多い。地域差や学校の方針にもよるが、年に1度の大きな行事の内の一つである。その日は皆が一致団結し、打倒他クラスを合言葉に大いに盛り上がる。イベント特有の非日常感に大半の生徒たちは弄ばれて浮かれるのである。但し、運動嫌いの一部の生徒はどう足掻いたとて浮足立つことはなく憂鬱には変わりないのだが。「憂鬱……」 差し込む陽射しを遮るように腕を額の前に掲げて、 昨今の地球温暖化問題において酷暑及び残暑は深刻なものであり、暑さ寒さも彼岸までといった言葉も次第に陰りが見え始めている。漸く残暑の空気が立ち去ったこの頃。校庭のトラックを囲うように並べられた椅子と不思議な腰掛けてぼんやりと競技が開催されるのを眺めている。街角で配布されていた不動産広告が書かれた団扇の生温い風に辟易しながら、事務的な声援を送る。隣に座る後輩も目の前を横切ったランナーに声援を送っている。本来ならば学年、クラス別に別れて待機しているのだが、吹奏楽部員は体育祭を盛り上げる一役として演奏を担当している。運営本部、救護テントと並んだその隣に陣取り、入退場や応援歌の演奏を担当する。基本的には自分の番が来るまではこのテント下で待機しているため、学年が違えどこうして隣同士で待機しているのである。「先輩、朝練の走り込みいつも周回遅れですものね」「運動苦手だからね」「まあ吹奏楽部は文化部ですから大丈夫ですよ」「別名、走る文化部だけど」「腹筋もしますね」「運動、嫌い……」「演奏は?」「大好きー!」「じゃあ、そのためにも運動もがんばりましょう! 演奏のためには筋トレ大事です!」「よくできた子だね……」「先輩もっと褒めて!」 体育祭という行事は確かに非日常感があり、盛り上がるが、やはり私のような運動を苦手とするタイプの生徒達は総じてうかないかおおをしている。運動を得意とする運動部に所属するような生徒たちとは違い、やる気は雲泥の差。やる気など家を出るときには置いてきたという生徒は多いはずだ。何が悲しくてこの残暑の空気が漂う中の炎天の校庭に教室から持ち出した椅子に座って他人が走るのを眺めていなければならないのか。いや、楽しいわけがない。 はあっと深い嘆息を漏らせば、後輩ちゃんは苦笑しつつも、私を元気づけようと健気である。こういったところは彼女の好ましいところであり、自分が男子であったら好意をもって交際を申し込んでいたかもしれれない。「まあまあ。降谷先輩と諸伏先輩の活躍でも観て目の保養にしましょうよ、先輩」「降谷くんと諸伏くん?」 ぱちくりと、瞬きをすれば、後輩の指さす方向を向く。その指先には、クラスメイトの降谷零くんと諸伏景光くんの姿がある。二人とも学校中のアイドルかというくらいの人気者であり、特に降谷くんはその浮世離れしたルックスは圧倒的に女子に大人気である。諸伏君も人気であるが、彼はどちらかというと女子よりは男子の支持率が多い気がする。いずれにせよ、その二人は女子男子共に一目を置かれる生徒である。「先輩同じクラスとか羨ましいすぎですよ」「そういわれても……二人とは事務的な接点ぐらいしかないしなあ」「あ! 降谷先輩借り物競争でるみたいですよ」「え? そうしたら、もうすぐ、私の大縄跳びのターン近いじゃん。ちょっとトイレ行ってくんね!」「えー! 先輩ここで!?」「後輩ちゃんが応援してくれるなら、私の応援がないぐらい降谷君も諸伏君も見逃してくれるさ」「ちょっと、先輩!?」 トイレへ行くついでに気分転換して少しサボってこようと、引き留める後輩ちゃんをするりとかわし、席を立つ。 トイレに向かう途中で校庭のトラックの中で待機している降谷くんがこちらを見た気がしたが、誰かと見間違えたのだろう。特に気にすることもないと、そのままトイレに向かう。***** 用を足し、ついでに飲み物を買い、一息ついてから校庭に戻れば、少しばかり騒然としている。はて、何事だろうか。「いた! みょうじ!」「え?」 大声で呼ばれてびくりとすれば、一斉に視線が私に向けられる。なんだ、なんだ。どうしてこうなった。戦犯が私なのか。 思わず後退りすれば、焦って一気に駆け寄ってきた降谷くんが私の両手を掴んで、逃がすまいとする。「え、え? 降谷くん?」「どこに行ってたんだ?! 探したぞ!」「お、お手洗いと飲み物買いに行ってたんだけど……」「一緒に来て」「なんで?」「借り物競争してるから」「え? まだ終わってなかったの?」「君がいないと俺は終わることが出来ないんだ」「? 私がいなくたって別に」「気になる子を連れてこいって書いてあるんだから、君以外じゃゴールできない。当たり前だろ!」「え?」「!?」ばっと口を両手で押さえた降谷くん。しまったという顔をした降谷くんに、戸惑いを覚える。聞き間違え出なければ、彼は気になる子を連れてくというお題で、私じゃなければ意味がないと言ったのだろうか。それじゃあ、まるで――……。 しんと、一拍の静寂。そして、噴火するが如くの悲鳴。 顔を紅潮させた降谷くんから伝染するように私の頬も熱くなっていく。夢みたいな話だ。何も関係ないと思っていた学校の人気者から好かれていたなんて。「みょうじ……俺……」「降谷くん……」 熱っぽく呼ばれ、思わず動揺してしまう。不整脈を起こしたかのように、鼓動が足早になっていく。どうしよう、私は人から好かれる事があるのか。こんなことがあるのか。見つめられる熱量に耐えられず、忙しなく視線を泳がせてしまう。「みょうじ」 降谷くんの手が、私の手に優しく絡まっていく。 ああ、もう、どうしよう――「降谷ー、みょうじー!さっさと走ってこーい! 借り物競争終わらんぞ!」 先生は本当に空気が読めない。19.04.16 25.04.26 加筆修正 その他 2025/04/28(Mon) 20:23:28
今年も憂鬱な時期がやってきた。
体育祭。日本では明治時代末期に「富国強兵」「健康増進」と言った意味で普及され、現在では健康や仲間たちとの協調性や連帯感を養うための行事とされていることが多い。地域差や学校の方針にもよるが、年に1度の大きな行事の内の一つである。その日は皆が一致団結し、打倒他クラスを合言葉に大いに盛り上がる。イベント特有の非日常感に大半の生徒たちは弄ばれて浮かれるのである。但し、運動嫌いの一部の生徒はどう足掻いたとて浮足立つことはなく憂鬱には変わりないのだが。
「憂鬱……」
差し込む陽射しを遮るように腕を額の前に掲げて、
昨今の地球温暖化問題において酷暑及び残暑は深刻なものであり、暑さ寒さも彼岸までといった言葉も次第に陰りが見え始めている。漸く残暑の空気が立ち去ったこの頃。校庭のトラックを囲うように並べられた椅子と不思議な腰掛けてぼんやりと競技が開催されるのを眺めている。街角で配布されていた不動産広告が書かれた団扇の生温い風に辟易しながら、事務的な声援を送る。隣に座る後輩も目の前を横切ったランナーに声援を送っている。本来ならば学年、クラス別に別れて待機しているのだが、吹奏楽部員は体育祭を盛り上げる一役として演奏を担当している。運営本部、救護テントと並んだその隣に陣取り、入退場や応援歌の演奏を担当する。基本的には自分の番が来るまではこのテント下で待機しているため、学年が違えどこうして隣同士で待機しているのである。
「先輩、朝練の走り込みいつも周回遅れですものね」
「運動苦手だからね」
「まあ吹奏楽部は文化部ですから大丈夫ですよ」
「別名、走る文化部だけど」
「腹筋もしますね」
「運動、嫌い……」
「演奏は?」
「大好きー!」
「じゃあ、そのためにも運動もがんばりましょう! 演奏のためには筋トレ大事です!」
「よくできた子だね……」
「先輩もっと褒めて!」
体育祭という行事は確かに非日常感があり、盛り上がるが、やはり私のような運動を苦手とするタイプの生徒達は総じてうかないかおおをしている。運動を得意とする運動部に所属するような生徒たちとは違い、やる気は雲泥の差。やる気など家を出るときには置いてきたという生徒は多いはずだ。何が悲しくてこの残暑の空気が漂う中の炎天の校庭に教室から持ち出した椅子に座って他人が走るのを眺めていなければならないのか。いや、楽しいわけがない。
はあっと深い嘆息を漏らせば、後輩ちゃんは苦笑しつつも、私を元気づけようと健気である。こういったところは彼女の好ましいところであり、自分が男子であったら好意をもって交際を申し込んでいたかもしれれない。
「まあまあ。降谷先輩と諸伏先輩の活躍でも観て目の保養にしましょうよ、先輩」
「降谷くんと諸伏くん?」
ぱちくりと、瞬きをすれば、後輩の指さす方向を向く。その指先には、クラスメイトの降谷零くんと諸伏景光くんの姿がある。二人とも学校中のアイドルかというくらいの人気者であり、特に降谷くんはその浮世離れしたルックスは圧倒的に女子に大人気である。諸伏君も人気であるが、彼はどちらかというと女子よりは男子の支持率が多い気がする。
いずれにせよ、その二人は女子男子共に一目を置かれる生徒である。
「先輩同じクラスとか羨ましいすぎですよ」
「そういわれても……二人とは事務的な接点ぐらいしかないしなあ」
「あ! 降谷先輩借り物競争でるみたいですよ」
「え? そうしたら、もうすぐ、私の大縄跳びのターン近いじゃん。ちょっとトイレ行ってくんね!」
「えー! 先輩ここで!?」
「後輩ちゃんが応援してくれるなら、私の応援がないぐらい降谷君も諸伏君も見逃してくれるさ」
「ちょっと、先輩!?」
トイレへ行くついでに気分転換して少しサボってこようと、引き留める後輩ちゃんをするりとかわし、席を立つ。
トイレに向かう途中で校庭のトラックの中で待機している降谷くんがこちらを見た気がしたが、誰かと見間違えたのだろう。特に気にすることもないと、そのままトイレに向かう。
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用を足し、ついでに飲み物を買い、一息ついてから校庭に戻れば、少しばかり騒然としている。
はて、何事だろうか。
「いた! みょうじ!」
「え?」
大声で呼ばれてびくりとすれば、一斉に視線が私に向けられる。なんだ、なんだ。どうしてこうなった。戦犯が私なのか。
思わず後退りすれば、焦って一気に駆け寄ってきた降谷くんが私の両手を掴んで、逃がすまいとする。
「え、え? 降谷くん?」
「どこに行ってたんだ?! 探したぞ!」
「お、お手洗いと飲み物買いに行ってたんだけど……」
「一緒に来て」
「なんで?」
「借り物競争してるから」
「え? まだ終わってなかったの?」
「君がいないと俺は終わることが出来ないんだ」
「? 私がいなくたって別に」
「気になる子を連れてこいって書いてあるんだから、君以外じゃゴールできない。当たり前だろ!」
「え?」
「!?」
ばっと口を両手で押さえた降谷くん。しまったという顔をした降谷くんに、戸惑いを覚える。聞き間違え出なければ、彼は気になる子を連れてくというお題で、私じゃなければ意味がないと言ったのだろうか。
それじゃあ、まるで――……。
しんと、一拍の静寂。そして、噴火するが如くの悲鳴。
顔を紅潮させた降谷くんから伝染するように私の頬も熱くなっていく。夢みたいな話だ。何も関係ないと思っていた学校の人気者から好かれていたなんて。
「みょうじ……俺……」
「降谷くん……」
熱っぽく呼ばれ、思わず動揺してしまう。不整脈を起こしたかのように、鼓動が足早になっていく。どうしよう、私は人から好かれる事があるのか。こんなことがあるのか。見つめられる熱量に耐えられず、忙しなく視線を泳がせてしまう。
「みょうじ」
降谷くんの手が、私の手に優しく絡まっていく。
ああ、もう、どうしよう――
「降谷ー、みょうじー!さっさと走ってこーい! 借り物競争終わらんぞ!」
先生は本当に空気が読めない。
19.04.16
25.04.26 加筆修正